ごとうゆうの本棚

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本好きのごとうゆうが読んだ本の感想などを気まぐれに紹介していくブログ

『すべてはあの謎にむかって』

 こんにちは。

今日はもう一冊本を紹介したいと思います。

 

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すべてはあの謎にむかって (新潮文庫)

 


基本データ

 
『すべてはあの謎にむかって』
出版社:新潮社
価格:550円
ジャンル:エッセイ
読了日:2018年8月15日
 

感想

週刊新潮の連載と、日経新聞の連載の中から厳選したもので、単行本でいうと『ぜんぶの後に残るもの』と『人生が用意するもの』を合わせて、その中から厳選したオリジナル文庫だそうです。

この連載中に、東日本大震災が起こり、川上さんも震災について、また震災から起こったさまざまなことについて言及しています。

 

このエッセイ集も笑いあり、ほんわかあり、失敗談あり、いろいろな色が詰まった宝石箱のようなエッセイなのだけど、やはり震災の時に書かれたエピソードが印象的でした。

あれだけの大災害が起こりながら、どこか日常に飲み込まれて何かが鈍くなっている東京、日常の恐ろしさ、慣れていくことへの危機感、国や 東電への不信感がつづられています。

きっと多くの人が同じようなことを感じていたのではないかと思うけど、ここまで自分の抱えていた感情をはっきりすっきりと言語化出来た人は少なくて、川上さんの連載を読んで、「そうそう、そうなの」と同調した人が多いのではないだろうか。

 

ごとう自身、震災直後、この簡単には名状しがたい恐ろしさ、緊急地震速報の音、度重なる余震、計画停電等で、かなりのストレスがかかっていたようでした。

このエッセイを読んで、「そう、当時これが言いたかった」と思わずつぶやいてしまった。 「愛とか好きとか素晴らしい」が震災の後に書かれたエピソードで、心に留めておかなくてはいけないことが書かれているので、紹介したいと思います。

以下、引用です。

 

世界に一つだけの花」っていう、みんながいい感じに受け取って気持ちよくなれるらしい歌があるけど、そんな風にみんなが等しくかけがえのない一回性を生きているからこそ、どうじにそれが等しく無価値にもなるのではなかったか。 中略 なんであれ、自分の行動を裏付けている動機を疑わなくなったら危険だよね。(p.29)

 

何かを「好き」と思うことはいいことだけど、それが自分の行動への免罪符として使われると感情が暴走したり他人を傷つける危険をはらんでくる。

川上さんの洞察が鋭い。

 

最後に一言

とても印象的だったのは、そんな彼女が、自身の職業の役割について、 「夢見る人を支えているのは」 「この非常時にいったい文学になにができるのですか」という問いに真剣に考えている回。

フィクションに身を置く職業だからこそ、フィクションにしかなしえない到達、治癒などの役割を認めたうえで、そこに過剰な価値や意義を見出すことには疑義を持っていたいと彼女は言う。

そこに彼女の凛とした作家魂が光り、私たちの明日の本棚を支えてくれる力強さを感じました.。

最後の一文の引用で、本の紹介を終えようと思います。

 

「わたしたちがフィクションをつくってお金を稼ぎ、夜は眠って夢をみて、目覚めてからもなお「夢想家」でいることができるのは、たとえば家を流され家族を失い、なにもかもを失い、夢を見ることもままならない無数の人たちの、それでも希望や夢を見ようとせずにはいられないほどの現実があってこそなのだから。」